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蜜刻に揺れて
第9章 Craving Desert
どうやって此処まで辿り着いたのか覚えていない。

繋がった手の感触すら曖昧で、この歳で今更何を緊張する事があるのかと。

リビングに入ったその時やっと其処が竜の家だと気付く。

あの時。

此処に連れて来たのは静が二人目だと言った。

一人目はきっとあいりだったのだ。

でも今はそんな事よりも、沈黙の中に心臓の音が響きそうで。

いつも叩いていた軽口の切れ端すら思い浮かばない。

爪先に掛かる窓枠の影をじっと見つめて、今夜の月の明るさをぼんやりと感じていた。

影が。

しゃがんだ人影が視界に入ると、ツンッと指先が引かれた。

肩がビクッと揺れて、膝をついた竜が其処にいた。

「…っ…たろ…?」

「静、好きだ」

そう言って取った手の甲に口付ける竜。

「俺のに、なるよね?」

問い掛けではなく、確認。

でもそれに対して効果的な言い返しが出ない。

あの竜が膝をついて求愛しているその姿に、なんと言い返せばいいか知っている人がいれば教えて欲しい。

「俺が欲しいんだろ?」

くっと喉が締まる。

失言だったのだ。

これから先何度でも持ち出される弱み。

見上げる竜の眼は意地悪なほどに妖艶さを湛えていた。

静は答えの代わりに唇にキスを落とした。
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