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eyes to me~ 私を見て
第66章 eyes to me~私を見て
歌手を夢見て、夏も春も秋も冬も、外で歌い続けた。
誰にも見付けられず、沢山の人々の中に埋もれそうになっていた自分。
彼にあの日会わなかったら、どうなっていたのだろう。
この出会いがなければ、強引な、けれどとてつもなく優しい愛を知らないままだった。
けれど、こんなに身を斬られる程の寂しさも知らずに居られた。
(剛さんと出会う前の私には戻れない……)
嗚咽が込み上げて、鏡に凭れた。
「…………ル」
ふと、耳の奥で何かが小さく響く。
耳に手を翳し、目を閉じると、ザワザワとした人々のざわめきに、手を叩く音……
「……ヒーメ……コール……
ヒーメー!……ル……
ヒーメー!アンコール!」
全身が総毛立った。
(こんなに離れた所まで、呼ぶ声が届いて……)
鏡の前に真っ直ぐと立ち、息を吐く。胸の前で両手を組み、祈る様に、呪文の様に胸の中で繰り返した。
(来る……来ない……来る……来ない……)
『お前は、俺だけの歌姫だ』
綾波の笑顔が、鏡の中に見えた気がした。
美名も、笑顔で頷く。
「剛さん……私……行って来るね」
ギターを持ち、深呼吸をし、ドアに手を掛けようとしたその時、がチャリとノブが回され、美名は吃驚して後ずさった。