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第16章 愛を囁く騎士、揺れる歌姫

｢ご注文の品をお持ち致しました――」

　翔大はゆっくりと美名から離れドアを開けた。
　美名は慌てて起き上がり、乱れた髪を直す。
　店員は機械的な手つきで飲み物と食べ物をテーブルに置き、
｢ごゆっくりどうぞ～｣
　と言って出ていった。

　翔大はフッと笑う。

｢ごゆっくり……か｣
｢……私、帰る……｣

　立ち上がると、腕を掴まれ引き寄せられる。

｢は、離して……｣
｢美名、ごめん……もう、しないよ｣

　翔大は、すまなそうに顔を歪ませた。
　美名が睨むと、手を離して頭を下げた。

｢本当にゴメン！今日は美名のお祝いをしたかっただけなんだよ……｣
｢お祝い？｣
｢デビューと、再会のお祝いだよ｣

　翔大の瞳には、もう危険な獣は宿っていない。