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eyes to me~ 私を見て
第32章 新しい恋と、忘れられない恋と
「綾波さん……居るの?」
逸る気持ちを隠しきれず、美名は声を上げた。
だが、夜のアパートの静寂の中、虚しく響いただけだった。
……来るわけがないよね……
美名は、フッと笑うと、荷物を中へ運びドアを閉め鍵をかけた。
暫くぼんやりとしていたが、バニっぴーを胸に抱き締めて顔を埋める。
「ねえ……あなたを連れてきたのは誰かな?」
勿論バニっぴーは答えない。
胸の中に浮かぶ、忘れられない人の姿を打ち消す様にきつく目を閉じて柔らかい人形を潰す如く抱き締めた。
美名はその時、綾波が離れた場所に車を停めて中から部屋の明かりを見つめて居る事を知る由もなかった。
人形を抱き締める美名を見て、微笑んでいた綾波は、真理の姿を認めると唇を結んだ。
明かりが消えて、二つの影が重なったまま見えなくなるのを見届けると、言った。
「――もういい。出してくれ」
車は、静かに走り出した。