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eyes to me~ 私を見て
第34章 蕀(いばら)を踏みしめる歌姫
「はい……大丈夫です……ええ、お待ちしています」
堺と話す綾波の声を聞いて、美名は慌ててバッグから鏡とメイク道具を出すが、ひっくり返してあちこちに散らばる。
「あ――っいけないっ」
しゃがむと、綾波もしゃがんで拾い集めてくれる。
「す、すいません……」
「ほら」
部屋の隅まで転がった口紅を拾って美名に握らせた時、丁度顔が至近距離になり、トクンと胸が鳴る。
そのまま、何秒か見つめ合ってしまった。
綾波の顔を、まともに見たのはどの位振りだろうか?
姿を見るだけで、一緒の空間にいるだけで苦痛で、顔なんて見る勇気がなかった。
眼鏡の中で煌めく、少年の様な幼さが何処かにあるのに、鋭くて冷たい目。
風が吹くと素直にサラリと揺れる真っ直ぐな髪。
キスと甘い言葉で、美名を蕩けさせた唇……
(だめ……やっぱり、見つめると苦しい……)
美名は顔を逸らし、ぎこちなく礼を言う。
「ありがとう……」