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eyes to me~ 私を見て
第42章 愛欲の塔で
綾波は、ドアを開けて降り一目散に走って行く。
「おい!何処へ行くんだよ――!」
真理が叫んだ。
タクシーが角を曲がった時に、綾波の目は無数の窓の中に不自然な人影を捉えていた。
ベランダに出て下を覗き込む人の形が他ならぬ美名だと、瞬きをする間に確信した。
綾波は、上着を翻し、大股で走り抜け声を限りに叫んだ。
「美名――っ」
冷たい白の手すりを持ち足をかけていた美名は、何処からか聞こえるその耳慣れた声に弾かれた様に顔を上げて目を開いた。
「う……嘘……そんな」
綾波が来るはずがない。
美名は打ち消し首を振る。
だがてタキシード姿の愛しい人が確かにこちらに向かい走って来る。
その姿は、まるで閉じ込められた姫を救出に来た勇敢な騎士か王子の様に見えた。
「剛……さ……ん」
手すりを持ったまま、へたへたと座り込み、その瞳からは新しい涙が溢れ落ちた。