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フルカラーの愛で縛って
第6章 命
  *  *


疲れ果てて眠る詩織の髪を、庵原が静かに撫でる。
夏の朝は早い。
閉じた遮光カーテンの隙間が僅かに白みかけているのを見つめながら、庵原は気付けば小さな溜息を零していた。

(・・・・・・)

昨日のニュースで、自分が殴った男の自殺を知った時には、思わず目を疑った。
槙野征ニという名前にも衝撃を受けたが、その男が後天性の色盲のため、2年前から白黒の世界で生きていたという事実にも驚いた。

詩織は知っていたのだろうか。
いや、知ることが出来たのだろうか。

燃やし尽くした写真の中で、彼女と槙野は、どんな関係だったのかと、その寝顔を見ながら思いを馳せる。
あれほど怯えて、あれほど苦しんでみえた女は、あの男と、どんな契約を交わしたのだろう。

ニュースで見た、槙野の油絵を、ふと思い出す。
彼の遺作として紹介された、その絵は、天を仰いで一人立ち尽くす女の裸婦画だった。
紛れも無く、詩織の顔だったように思う。

寝顔を見下ろし、ベッドヘットに寄りかかっていた身体を少しずらす。
こちらを向いて眠る彼女を腕の中に引き込み、互いの腰を覆うタオルケットをかけ直した。
頬にかかった髪をかきあげてやると、安心しきった表情が、微かに動く。

忘れさせて、か。

快楽は逃げ場になんてなりえない。
分かりきったことだ。
お互い、もう、それくらいのことは知っている年齢のはずだ。

(特に、俺と寝るなら、尚更―――)

薄暗い室内で、真っ白い天井を見上げ、庵原は細い瞳を瞬かせる。

それでも、自分は彼女の声に応じ、彼女を抱き、彼女の中で果てた。
それが正しいのかは誰にも分からない。きっと、詩織自身にも。

「……ん」

寝息混じりに、詩織が小さく唇を動かした。
その顔を穏やかに見つめてから、ベッドを揺らして自分の身体も詩織に向ける。
程よく筋肉のついた腕で、まどろむ彼女を守るように抱きしめてから、庵原も、束の間の眠りの中に、その身を委ねた。


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