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フルカラーの愛で縛って
第8章 微笑
■微笑■
巷にクリスマス・ソングが流れる頃。
Jazz Bar 『Dance』のフロアは、珍しく早く出勤した土曜日のメンバーで湧いていた。
何故か、休みのはずの国崎も出勤して、フロア奥の一角を眺めながら笑っている。
その視線の先には、背中に羽を背負った詩織の写真が飾られている。
写真画集『あだばな』の最後のページに掲載されていた、赤い羽の”アゲハ”を大きくポスターサイズまで引き伸ばしたものだ。
「少し……、官能的すぎないか?」
佐々木が難しい顔で腕を組み、言葉を選ぶが、望月が満面の笑みで首を振っている。
「佐々木さん、真面目だからー。今時のバーなら、これっくらいが丁度いいくらいですよ」
ね、国崎さん、とじゃれつく望月に笑みだけ返し、国崎は庵原と詩織の二人に顔を向ける。
「いいのか?」
その問いに、庵原も細めた瞳で詩織の表情を確認する。
だが彼女は、2人の男の労るような眼差しに、迷いなく微笑んで頷いた。
「大丈夫。……あ、でも、国崎さん」
「ん?」
「この写真が私、って言ったら、変なお客さん、ついちゃうかな」
「そうだな。まぁ、ありえない話じゃないだろ」
「んー…、じゃあ、双子の妹ってことにしとく」
その言葉に、庵原が息混じりに小さく笑う。
「そっくりだな」
「でしょ?」
返す詩織の声は、明るい。
和やかな雰囲気の中、いまだ難しい顔でエロスと芸術の境目を探す佐々木の肩を、国崎が一つ叩く。
案ずるな、と言いたげに小さく頷く国崎に、肩をすくめた佐々木が、そのまま、ふとエレベータホールへ視線を向けた。
直後、遅れてきた青年が駆け込んでくる。
「やっべ。遅くなりました!」
「あ、小鳥遊さん!」「遅いぞ、小鳥遊」「何してた」
「すんません! 途中で変な女にぶつかって」
「なんだナンパか」「ナンパ遅刻か」「ハルト君、ナンパするんだ」
「違いますって! しないし、ナンパとか!!」
一斉攻撃を受ける小鳥遊が、後頭部を掻きながら輪の中に入る。
「詩織さんのことは、ナンパしちゃ駄目ですよー、小鳥遊さん」
「まず、お前に詩織はもったいない」
和気藹々と愉しげに話すメンバーを眺める詩織に、庵原がゆるりと視線を向けた。