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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
煙立つやや古びた、ホルモン焼き屋の店内。七輪の炭火の上で、ジュウジュウと脂が弾ける音がしている。
焼き上がったテッチャンを頬張り、大ジョッキのビールを豪快に煽っている奈央。ざく切りのキャベツをつまみつつ、俺は若干の呆れ顔を浮かべた。
「しかし……よく太らないよな」
「私の場合はね、脂肪は主にココに蓄積されの。なんてね」
冗談めかして笑い、無邪気に自慢の胸を強調する奈央。
「それ以上育つと、垂れるぞ」
「やな事言わないでよ。こう見えて昔は、かなりコンプレックスだったんだから。同級生の男子に、牛みたいだって言われたりしてさ」
「それにしちゃ、自信タップリに見せつけてる気もするが……」
谷間の覗く胸元をチラリと見て、俺がそう言うと。
「だって中崎さん、好きでしょ。この胸――」
奈央は色っぽい瞳を、俺に向けた。
「特別に胸がどうのって、訳じゃないから……」
「ウソ。ココに挟んであげると、とっても気持ちよさそうにしてるのは、何方でしたっけ?」
「コラ……何を言い出すんだよ」
隣接する客との距離が近い席で、容赦なく話す奈央にたじろぐ俺。
「あはは。いいから中崎さんも、食べて。さっきから、キャベツなんかつまんじゃって。もうオジサンなんだから、しっかり精力のつけなくちゃね。じゃないと、この後のセック――」
「ああっ! もう、わかったよ。頼むから、あまり大声で話さないでくれ」
酔って赤裸々に語る奈央の言葉を、俺は必死に制していた。
「あ、そうそう。話は変わるけれど――」
「ああ……そうしてくれると有難いね」
「もう、真面目に訊いて」
「悪い――それで、何?」
「もう直に連休でしょ。予定とか、どうしよっか?」
「そうか……もう、そんな時期か」
冬が去りすっかり春めいたと思えば、もう四月も中頃を過ぎている。いわゆるGWとされる五月の連休も、このままではあっという間に訪れることとなろう。
別れた妻・曜子との予期せぬ邂逅を経て。愛美ともう一度会うことを、俺は強く望んだ。あの日より、既に十日。俺は未だに、その望みを果たせずにいた。
気がつけば俺は、愛美のことを何も知ってはいない。住んでいる場所も勤め先も、彼女は何一つ確かなことを話してはいなかった。携帯というツールに、その繋がりを依存しきっていた弊害であろう。
焼き上がったテッチャンを頬張り、大ジョッキのビールを豪快に煽っている奈央。ざく切りのキャベツをつまみつつ、俺は若干の呆れ顔を浮かべた。
「しかし……よく太らないよな」
「私の場合はね、脂肪は主にココに蓄積されの。なんてね」
冗談めかして笑い、無邪気に自慢の胸を強調する奈央。
「それ以上育つと、垂れるぞ」
「やな事言わないでよ。こう見えて昔は、かなりコンプレックスだったんだから。同級生の男子に、牛みたいだって言われたりしてさ」
「それにしちゃ、自信タップリに見せつけてる気もするが……」
谷間の覗く胸元をチラリと見て、俺がそう言うと。
「だって中崎さん、好きでしょ。この胸――」
奈央は色っぽい瞳を、俺に向けた。
「特別に胸がどうのって、訳じゃないから……」
「ウソ。ココに挟んであげると、とっても気持ちよさそうにしてるのは、何方でしたっけ?」
「コラ……何を言い出すんだよ」
隣接する客との距離が近い席で、容赦なく話す奈央にたじろぐ俺。
「あはは。いいから中崎さんも、食べて。さっきから、キャベツなんかつまんじゃって。もうオジサンなんだから、しっかり精力のつけなくちゃね。じゃないと、この後のセック――」
「ああっ! もう、わかったよ。頼むから、あまり大声で話さないでくれ」
酔って赤裸々に語る奈央の言葉を、俺は必死に制していた。
「あ、そうそう。話は変わるけれど――」
「ああ……そうしてくれると有難いね」
「もう、真面目に訊いて」
「悪い――それで、何?」
「もう直に連休でしょ。予定とか、どうしよっか?」
「そうか……もう、そんな時期か」
冬が去りすっかり春めいたと思えば、もう四月も中頃を過ぎている。いわゆるGWとされる五月の連休も、このままではあっという間に訪れることとなろう。
別れた妻・曜子との予期せぬ邂逅を経て。愛美ともう一度会うことを、俺は強く望んだ。あの日より、既に十日。俺は未だに、その望みを果たせずにいた。
気がつけば俺は、愛美のことを何も知ってはいない。住んでいる場所も勤め先も、彼女は何一つ確かなことを話してはいなかった。携帯というツールに、その繋がりを依存しきっていた弊害であろう。