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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
 こ……殺した? 衝撃の事実を耳にし、俺は唖然とする。

 そんな俺を気にするでもなく、彼女はこう言葉を続けた。

「最も愛美は……そうは思って、いないのでしょう」

「……?」

 一体、どういう意味だ? 俺は真相に近づこうとして、言葉を絞り出す。

「殺したって……本当に?」

「ええ、間違いなく――この手で」

 愛美の母は――そう言って、自らの両手をじいっと見つめた。

「そ、それじゃあ……」

「刑期を終え、出所したのが三年前になります。愛美と最後に会ったのも、その時でした」

「一体……何が?」

「柴崎を手にかけた経緯は、私の口から語ることを控えたいと存じます。万一でも愛美が……貴方に心を許し、それを語る日が来るのならば……」

「しかし、そんな……」

「中崎さん、どうか。あの娘の助けとなって、いただけるよう――切にお願い致します」

 そう言って彼女は、深々と頭を垂れている。

「ま、待ってください! 何故、初めて会った私に……そこまで?」

 すると――顔を上げた彼女は、情愛とも憎悪とも思える複雑な表情をして、俺の顔を真っ直ぐに見据えた。

「玄関で一目見た時から、感じておりました。失礼ながら貴方が……柴崎に、似ていると。恐らくは愛美もその面影を、貴方に重ね合わせている筈です。ですから勝手ながら、重ねてお願い致します。あの娘を……過去の呪縛から、解放してやって下さい」

「……」

 真実の欠片と新たな謎を心に宿し、その後――俺は愛美の母の元を後にする。

    ※    ※

「俺に……どうしろって言うんだよ」

 深夜――帰宅の途上にあるコンビニの駐車場にて。俺は仮眠をしようと、車中のシートに背を凭れてながらも、思わずそう呟いた。

 長時間の運転で披露した身体に反し、瞼は一向に閉じようとしない。愛美のこと――その母親より聞いた話が、頭の中を駆け巡っている。

 確かに俺はもう一度、愛美に会おうと決めた。それは俺なりのけじめをつける為。しかし今――愛美の心の闇の一端に触れ、俺は気後れする想いだった。

 人一人の命が失われ、その時に生じたであろう傷。それを癒すなど、俺には無理ではないかと感じてしまう。

 それでも――

「私の古い友人が、愛美をこの場所で見かけたと――」

 俺は母親から受け取ったメモを、じっと見つめた。
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