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曖昧なままに
第11章 遠くを訪ね
 暫く絶句するように、その写真を見つめた後――。

「やっぱり……あの娘は……まだ……」

 呆然と宙を見つめ、彼女は呟く。そして身体をワナワナと震わせると、薄らと瞳に涙を浮かべた。

「あの、大丈夫……ですか?」

「え、ええ……つい取り乱してしまい、失礼を致しました」

 写真の男が、愛美とその母親に深く関わる人物であるのは、間違いないらしい。少し落ち着くのを待つと、俺はついにその核心へと迫る。

「そこに写っているのは――誰ですか?」

「これは私の――内縁の夫だった男」

「内縁……の?」

「はい……」

 彼女は涙を指で拭うと、表情を引き締め語り始めた。

「私と愛美は、長らく二人で暮らしておりました。愛美の父親は、あの娘が幼い時に病気で亡くなり……それ以来のことです。決して楽な暮らしではありませんでしたが、今にして思えば幸せだったのかもしれません。日々成長してゆく愛美の姿を励みとして、私は必死に働きました。そして時には、夜の仕事にも……」

「……」

「そんな中で知り合ったのが、この写真の――柴崎と名乗る男でした。愛美がまだ、中学生だった頃の話です」

 そう話した彼女は、手にした写真を恨めしそうに見つめている。

「母として生きてきた私にも、まだ女の部分が残されていた。結局、私は柴崎に絆されてしまい……あの男は私たちの家に、転がり込んで来ました。ロクに仕事もしない、調子の良いだけの男を……愛美の居るあの家に……。それが全ての過ちの、始まりとも知らず……」

 怨念を滲ませるように、彼女はそこまでを語ると口を噤んだ。

「その人と愛美さんの間に、何かトラブルが?」

「……」

 俺の問いに対して、彼女は沈痛な面持ちのまま口を閉ざす。

 それまでの話を聞いた俺は――


『昔のことを思い出して……』


 愛美のその言葉を思い浮かべる。恐らくは愛美の過去に、写真の男――柴崎が何らかの影を落としている筈。それをどうしても知りたかった俺は、切り口を変えて更に問い質そうと試みた。

「その柴崎さんは今、どうしているんですか?」

 すると――

「もう、おりません」

「既に別れている、と?」

「違います」

「え……それでは?」

「柴崎は、私が――」

 暗い眼差しのまま放たれた、次の一言は――俺を戦慄させる。


「殺して、おります」 
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