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曖昧なままに
第12章 波乱の再会
「だから、レジ前で洋人さんを見た時……私は嬉しかった。でも、それ以上にとても……怖くなって。それで――」
彼女は俺の前から、逃げ出そうとしている。だが、どうして――。
「俺が――怖い?」
愛美は髪を揺らし、首を横に振った。
「さっき、私に話してくれてる時に思いました。洋人さんは、優しい人……いえ、そんなこと、ずっと前から知っていた。知っているから……怖い。もう、洋人さんを私の過去に、巻き込むのは止めようって……そう決めていたから」
「それは、俺に彼女ができたって、聞いた……から?」
自分でそう口にしながら、ズキッと胸が痛む。俺に優しいだなんて、言ってもらえる資格などありもしない。
しかし愛美は、そんな俺の問いにも淡々と答えた。
「そうではありません。いえ、正直に言えば少しショックでしたが……あの日の前『話がある』というメールを見て、ある程度の予想はしていました」
「ごめん……」
「別に洋人さんが、気に病む必要はありません。私は自分の勝手な都合で、洋人さんを利用していたんです。けれど、それもできなくなる。そう感じていた私にとって、あの日が想いを遂げる、最後のチャンスでした」
想いを遂げる。それはやはり、彼女が頑なに守っていた、最後の一線のこと……?
「でも、洋人さんは直前で引き返した。それで私も、もう止めようって……そう思っていたのに」
俺はそれを聞き、何だか自分が恥ずかしくなった。
「引き返した――なんて言わないでくれ。あれは俺に『覚悟』がなかっただけ。だから、俺は……」
その時の委縮した自分を思い出し、情けない想いに苛まれるが――。
「それも違います。あの時――私が『愛菜』となったのは、きっと私自身では無理だと知っていたからなんです。仮の人格でそのまま、乗り越えようとしていた。でも結局は、洋人さんに『覚悟』を強く迫ったりして……。初めから覚悟がなかったのは、私の方なのに……」
彼女の言葉から伝わるのは、その奥底の如何ともし難い哀しみだけ。何故、男と交わることに、それ程の抵抗が生じているのか。
それを知るには、どうしても訊かねばなるまい。
「話してくれないか。愛美の過去に、何があったのかを」
但しそれを聞く以上、俺には……。
「……わかりました」
その時――愛美はついに、その過去を明かそうとしていた。
彼女は俺の前から、逃げ出そうとしている。だが、どうして――。
「俺が――怖い?」
愛美は髪を揺らし、首を横に振った。
「さっき、私に話してくれてる時に思いました。洋人さんは、優しい人……いえ、そんなこと、ずっと前から知っていた。知っているから……怖い。もう、洋人さんを私の過去に、巻き込むのは止めようって……そう決めていたから」
「それは、俺に彼女ができたって、聞いた……から?」
自分でそう口にしながら、ズキッと胸が痛む。俺に優しいだなんて、言ってもらえる資格などありもしない。
しかし愛美は、そんな俺の問いにも淡々と答えた。
「そうではありません。いえ、正直に言えば少しショックでしたが……あの日の前『話がある』というメールを見て、ある程度の予想はしていました」
「ごめん……」
「別に洋人さんが、気に病む必要はありません。私は自分の勝手な都合で、洋人さんを利用していたんです。けれど、それもできなくなる。そう感じていた私にとって、あの日が想いを遂げる、最後のチャンスでした」
想いを遂げる。それはやはり、彼女が頑なに守っていた、最後の一線のこと……?
「でも、洋人さんは直前で引き返した。それで私も、もう止めようって……そう思っていたのに」
俺はそれを聞き、何だか自分が恥ずかしくなった。
「引き返した――なんて言わないでくれ。あれは俺に『覚悟』がなかっただけ。だから、俺は……」
その時の委縮した自分を思い出し、情けない想いに苛まれるが――。
「それも違います。あの時――私が『愛菜』となったのは、きっと私自身では無理だと知っていたからなんです。仮の人格でそのまま、乗り越えようとしていた。でも結局は、洋人さんに『覚悟』を強く迫ったりして……。初めから覚悟がなかったのは、私の方なのに……」
彼女の言葉から伝わるのは、その奥底の如何ともし難い哀しみだけ。何故、男と交わることに、それ程の抵抗が生じているのか。
それを知るには、どうしても訊かねばなるまい。
「話してくれないか。愛美の過去に、何があったのかを」
但しそれを聞く以上、俺には……。
「……わかりました」
その時――愛美はついに、その過去を明かそうとしていた。