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曖昧なままに
第13章 忌むべき過去(愛美の独白)
 力なく廊下にへたり込む――私。

「ご、ごめんなさい。私、何て酷いこと……」

 震える唇で声を奏で、無意識のままにポロポロと涙を零していた。

 しかし柴崎さんは、すぐに微笑みを向けて――

「ハハ……平気、平気。そんなに、心配するなよ」

 赤く腫れている痛々しいその手を差し出し、私の頬をそっと拭ってくれる。そして優しく私を見つめ、こんな風に訊ねた。

「愛美ちゃんは、おじさんのこと……嫌いか?」

 嫌いな訳ないよ……。私は顔を左右に振る。

 けれど「好き」だなんて言ったって、私の本心が伝わることなんてない。子供の私の言葉が、彼の大人の部分を揺るがすはずもなかった。

 そんな無力さを痛感し、それでも私は何かを伝えようとする。流れる涙の意味は、もうさっきまでと違っていた。 

「そうじゃない。だけど……どうしていいか、わからなくって……とても、辛いよ。だって……私は……お母さんの……」

「愛美……ちゃん?」

 柴崎さんの顔色が変わる。私は涙をぐいっと袖で拭うと、その顔を真っ直ぐに見た。

「柴崎さんは、私を――どう思ってますか?」

「それは……とても可愛い女の子だと――」

「違う……違うの」

 私はもどかしさに耐え兼ね、両手を床につくと下を向いて俯く。

「お母さんの娘とかじゃなく……私を……ちゃんと見てよ」

 まるで駄々っ子。そんなだから、子供なんだ……。自分でも何を言いたいのか、よくわからず。私は自分自身に呆れていた。

 だけど、この時――。

「愛美――」

 そう言って私の肩を両手で起こし、柴崎さんは初めて私を呼び捨てにする。そして、まだ私の知らない顔を見せて、とても意外なことを告げた。


「俺と、キス――しよっか」


「え……」


 答える間もなかった。

 スローな感覚の最中、彼の顔が徐々に近づく。

 私は動けなくて――ううん、きっと受け止めようとして、動かずにいた。

 そして――彼は私の初めての唇を、あっさりと奪い去っていた。

「ん……」

 瞳を閉じ、私は懸命にその一瞬を、心に刻もうとする。

 でもそれは、決して美しい想い出になんてなり得ない。

 煙草の香りと、チクチクと擦れる髭――それらが唇の感触にも勝って思えた。


 けれど、これは大人の味――ならば、悪くもない。
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