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曖昧なままに
第14章 月並みな俺

「……」

 俺は固唾を呑んで、愛美の言葉に耳を傾けていた。

「――そのまま、柴崎さんは死にました。でも私はその先のことを、よく覚えていません。気がついた時には、私は母の実家に来ていて……。たぶん母は、警察に出頭する前に、私のことを祖父母に託していたのですね」

 愛美は静かに淡々と、自分の過去を話して聞かせている。

「その後のことは、特にお話するようなことはありません。恐らく私は、自分を護ろうとしていて……。無意識の内にその時のショックを、心に留めないようにしていたんだと思います。只、何となく虚ろに……何となく生きていた」

 だが表層の冷静さとは裏腹に、その心根はどれ程の揺らぎを覚えているのか、俺の想像が届く処ではなかった。

「でも……そんな私でも、時が過ぎれば身体だけは、どんどん大人になっていて。人並みには、男の人を意識したり……。だけど、そうなるとやっぱり……あの時の想いが強く……蘇ってきて……」

「それで……恋愛ができない、と?」

「はい……。ですがそのことを、母のせいにするつもりはないんです。すべては自分の愚かさが招いたこと……寧ろ母には申し訳なく思っています」

「でもお母さんは、君と会ってないって……」

「それは……顔を合わせれば、お互い辛いこと……わかりきってますから」

「あ……すまない」

 俺は自分の言葉が、浅はかであったことを詫びる。しかし――

「いえ、謝るのは私の方なんです」

「え……?」

「私は初めて会った時から、洋人さんを柴崎さんの幻影に、重ね合わせていました。だけど、今なら少しはわかります。柴崎さんが、どんな人だったかってこと。憎めない人だったけど、やっぱり……。洋人さんとは、全く違います。何処か雰囲気が似ていただけ……そんなの、とっくにわかっていたのに。私は洋人さんを、巻き込んでしまった」

「それは――何も愛美が悪い訳じゃなくて。俺の方こそ――」

「いいえ。たぶん洋人さんは、普通の恋愛を私に求めてくれていた。なのに私が、それを捻じ曲げてしまって……」

「……」

「去年のイブの夜……私は本心から、洋人さんに抱かれようと思っていました。別に過去を断ち切りたいとか、一時の気の迷いではなく……貴方に魅かれ始めていたから……です。だけど……皮肉なものですね」

「皮肉……?」

 俺はその真意を問う。
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