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曖昧なままに
第14章 月並みな俺
「柴崎さんに似ているから、私は洋人さんに興味を抱いた。そしてその人柄を知る内に、何時しか魅かれていて……。だけど、柴崎さんに似ているからこそ、私は強烈に過去を蘇らせてしまう。だから、想いが果たせなくて……。それでも、貴方を繋ぎ止めようと……柴崎さんにしてたようにしていて……」

「……」

「いつの間にか、私は……同じ過ちを繰り返してしたんですね」

「愛美……」

「話を聞いてもらえて、よかったと思っています。何より洋人さんは、私を追って来てくれた……それでもう十分。私……来週にはこの街を、出て行くつもりでいます。だからもう、私のことは――」

 ――忘れてください。恐らく愛美は、そう言葉を続けようとして……。 

 しかし自分の過去に纏わる長い話を、愛美はそこまでで終わらせている。その後は黙って、窓の外の景色を眺めながら静かに佇むだけ……。

 そしてその一部始終を聞いて、俺はどんな言葉をかければいいのか。

「……」

 あまりの衝撃の過去は――只、俺の言葉を失わせていた。二人の間に沈黙の時だけが、何処までも流れてゆく――。

 長い間、そうしてた後。語っている間、終始その視線を逸らしていた愛美が、初めて俺の方を向いた。

「……」

 そして黙したままに、真っ直ぐなその眼差しで俺を見つめ。その瞳の中に薄らと滲む朝陽の光が、ゆらゆらと揺れている。

 愛美のその時の顔が、俺にはとても儚く思えていた。

 俺はどうしようもないくらい、凡庸で月並みな男。自分から望んで彼女の話を聞きながら、その事実の重さにすっかり気後れしている。正直に言って、彼女に畏怖すら覚えていた。

 だけど愛美は、深い傷跡を癒すこともできなくて。もがき苦しみ何とか生き続けて、今――俺の目の前に辿り着いている。

 そして彼女は無言であっても、その瞳は俺に助けを求めているように思えた。そう感じた時、俺は彼女に言う。

「お……俺が愛美を、抱くことができれば……?」

 だがさっきまでの表情とは裏腹。愛美はふっと笑みを浮かべ、ゆっくりと首を振る。

「柴崎さんは命を散らしながら、私の中で果てました。あの生々しい光景と感触が、私の中から消えることなんてないんです」

「し、しかし……」

 その上、この俺が何を言えるのか……。

 愛美の心の闇は、俺の想像を遥かに超えて――何処までも、深く。
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