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曖昧なままに
第14章 月並みな俺
 想定を逸脱しながらも、とりあえず互いを満足に導いた後。ベッドで一息つき、俺は奈央と身を寄せ合う。そしてじゃれ合うように、取り留めもない会話を交わした。

「中崎さんの方が、イクの一瞬だけ早かったよね。つまり、私の勝ちー」

「は? 何、子供みたいなこと言ってるんだよ。そんなの、競ってないし。それに、その気になれば、奈央なんてソッコーで――」

「あはは。剥きになっちゃって。そういうの、負け惜しみって言うのね」

「ああ、わかった。後でめちゃくちゃに、感じさせてやる」

「フフフ。じゃあ精々、期待しておいてあげるよ」

 あんなふざけた行為に及んだのも、こうして笑っていられるのも、相手が奈央であるから。散漫だった俺がいつの間にか、その顔を見て笑っていた。そしてとても安らいでいる、自分に気がついている。

 それを俄かに実感した時――俺はこう呟いていた。

「俺――奈央と一緒になりたいな」

 口にした言葉に、自分自身ハッとして。俺は慌てたように、奈央の顔を見る。

 その時、艶やかに微笑を浮かべた奈央は――

「――いいよ」

「いや、ちょっと待った。俺、つい――え……いいの?」

「うん」

「そ、そんな簡単に……だって……?」

「ふと口をついた言葉……だったんでしょ? だから、私も素直に応えられたの。たぶんそれって、大切なことなんだよ」

「奈央……」

「中崎さんは、自分のことだからわからないの。貴方は十分に素敵だよ。少しネガティブで、何時だって人より余計に頭を悩ませてる。でもそんな不器用さの陰には、見せかけじゃない本当の優しさがあって……。私はそんな貴方を、見つけることができた。だからね……今はとても、嬉しいんだ」

「……」

 奈央の言葉を聞いて、込み上げて来る喜び。だが同時に去来する、如何ともし難い別の感情があった。

 俺は……そんな良い男じゃ、ない。

 このまま奈央に微笑みを返して――そうすれば、それで良かったのかもしれない。この一瞬を綺麗な想いとして、この先も二人で共有して行ける。

 だけど、それは誤魔化に過ぎない。そんな自分は、奈央が好いてくれる俺ではない。俺はそのまま、自分と奈央を偽るのが嫌だった。

 この幸せが崩れると知りながら、それでも俺は笑うことができない。

「中崎さん……?」

 奈央は即座に、俺の異変を感じ取っていた。
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