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曖昧なままに
第15章 唯、興じて
 軽く触れた唇の微かな振動は、彼女の緊張を俄かに俺に伝えている。

「ん……あむ」

 そう悟られることを、嫌ったのだろうか。愛美は両手を回し、俺を引き寄せ強烈に唇を押し当てた。顔の角度を交差させて、噛み合うように貪るゆく――二人。

 互いの表裏を入念にと確かめる如く、二つの舌は――絡み、絡まれ、絡み結ぶ。

 ちぅ――ちぱっ。

 湧き滲む唾液を吸い合い。相手の吐息すら呑み合い。歯を軋む程にぶつけ合う。

 そのキスは――深くて、熱くて――何処か重いようでも――あり。

 それを与えながら、俺の手が弄るように滑り――脇から――胸へ。

「あ……」

 それに応じピクリと反応して、愛美は唇を離す。そして、恥ずかしげに顔を伏せ、小声で言った。

「今――布団を敷きますから」

「ああ……うん」

 ベッドの無い畳の部屋であるが故の、何とも微妙な幕間。俺は呆然と立ち尽くし、丁寧に床を作る愛美の所作を眺める。

 時折――蒼空に雷が光ると、そんな二人の影を畳の上に落とした。

 暫しの後――。

「洋人さん……敷けました」

 愛美はそう言って、布団の端を整えると、俺に背を向けて立ち。そして淡々とした動きを以て、自らの衣服の一枚一枚を脱ぎ始めた。


 ボタンを外され、ハラリと舞う白のブラウス。

 タンクトップがスルリと首を抜け、ふぁさと広がる髪と白く華奢な肩。

 脇のチャックを開きストンとスカートが落ちて、顕わになる細い両脚。

 そして一切の躊躇なく、後ろ手にブラジャーを取り去り。

 更に艶めかしい尻を突き出すような動きで、最後のショーツまでも脱ぎ終える。

「……」

 一部始終をこの目で追い、鼓動と興奮を高めて俺は手を伸ばした。

 しかし――身体を抱き取ろうとすると、愛美は背中で言う。

「洋人さんも……裸で」

「あ、ああ……そうだな」

 愛美の裸に見惚れ、立ち尽くしていた俺。そんな己を見透かせれ、ふと気まずさを覚える。それでも急いて、俺は無造作に服を脱ぎ去った。

「脱いだけど」

 わざわざそれを伝えると――

「はい……」

 愛美は短い返事で、それを了解する。

 それを耳にした瞬間。俺は堪らずに、彼女を後ろから強く抱いた。

「あ……」

 愛美のか細い、声が漏れる。

 男の高鳴りが、愛美の背筋に突き当たっていた。 
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