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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 此処はベッドの上、見慣れた自分の部屋。それを確認し――

「ああ……そうか」

 俺はそれが夢であることに、再び気づかされた。元々その自覚はあったが、いつの間にかのめり込んでいたようだ。身体には、嫌な汗が滲んでいる。

 どうせ夢であるのなら、最後まで甘美なものに徹底してもらいたいものだ。途中からホラーに変更など、望んではいない。ネガティブな俺の性格が、夢にも反映してしまった故なのか……。

 どちらにせよ、欲求不満であることに間違いはない。


 俺の名は、中崎洋人(なかざきひろと)。田舎の零細企業に勤務している、何処にでも生息する普通の会社員だ。年齢は三十を少し過ぎた頃。

 ちなみに、バツイチの独り者である。

 前妻と離婚してから、既に数年が経過。暗い闇に身を潜めるような、バツイチの三十男の一人暮らし。そんな俺が寂しさに苛まれるのは、自然の摂理と言えよう。あんな夢を見てしまうのも、その弊害だ。

 しかし今の俺には、新しい彼女を作る気力も努力も足りてはいない。


 そんな焦りも感じてのこと。ある時ふとネット上で目を止めたのは、出会い系サイトであった。最初は抵抗を感じ二の足を踏むも、如何わしくないかを慎重に確認。そうして俺は、そのサイトに登録を果たしていた。

 とりあえず、女性のプロフィールを閲覧。その中で三人を選ぶと、当たり障りのない文面でメールを送信する。

 こんなことで、誰かに出会えたりするのか?

 やってはみたものの、何処か疑心暗鬼の俺。特に期待する訳でもなく、暫くそのまま放置。パソコンを開いたのは、三日後のことだった。

 すると、俺宛てに一通の返信が――。

『はじめまして。メールありがとうございます。S市にお住まいなのですね。私も同じです。よろしければ、またメールでお話ししましょう』

「……」

 俺は俄かに高鳴るものを覚える。そして、相手のプロフィールを再度確認。

『名前――マミ。年齢――24歳。性格――大人しい。趣味――(等々)』

 一気に色めき立ち、急ぎメールを返信する俺。

 とは言え当初は、警戒も怠らなかった。この手のサイトには、サクラがつきものと耳にしている。この『マミ』にしても、その可能性を疑う必要を感じている。

 三十過ぎのバツイチ男に、十近く若い女が興味を持つだろうか。そんな疑念が、先に立っていたのであった。
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