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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 しかし、何度かメールを繰り返す中で、その疑いは徐々に薄らいでゆく。短いメールの文面の中にも、そこはかとなく彼女の誠実さが、表れているように思えたのだ。

 真面目で純朴そうな女性。俺の独りよがりの妄想は、日に日に肥大してゆく。

 その後の二週間。俺は毎日のように、夢中で『マミ』とのメールを繰り返していた。そしてついに、俺はそのメールを送信する。

『今度の土曜日。お会いしませんか?』

 ――と。


 一日を待って、彼女からの返信。ドキドキしながら、俺はそのメールを開く。

『私……あまり容姿には自信がありません。特に最近は太り気味だったりして……。そんな私でも、よろしいですか?』

 彼女からのメールは、そんな内容であった。

「……」

 俺は暫し考えた後、『構いませんよ。是非、お願いいたします』という趣旨に合わせ、時間や場所を彼女に示す。だが約束を交わしながらも、俺は微妙な心境に陥っている。それもある程度は、やむを得ないことであろうか……。

 そうだよな……あまり期待するのは止めよう。

 過度に膨らんでいた妄想に対して、俺は一定の軌道修正を余儀なくされた。そして幾分冷めた心理状態のまま、俺は約束の土曜日を迎えることになる。

    ※    ※

 土曜日の昼下がり。市内のショッピングモール。その中にあるフードコートで、一人佇む俺。もう間もなく、約束の時間だ。

 一人でいる女性を見かける度に『マミ』ではないかと、緊張を顕わにしている俺。いい歳をしてみっともないが、この手の経験から遠ざかっているので仕方がなかった。

 だが待ち人は、なかなか現れようとしない。

 場所がわかりにくかったのかな。俺はそんな反省をしつつ、一人でコーヒーを啜っていた。そんな時――

「!」

 ふと目についたのは、落ち着かない様子でキョロキョロとしている若い女性。

 もしかして彼女が? そう思いながらも、俺のテンションは一気に急降下した。

 この日に至るまで、ハードルは十分に引き下げていた筈。メールの内容から察すると『容姿の優れない太った女性』であることを彼女は匂わせていた。それを了解しながらも、何処かで期待は捨て切れなかったのだろう。

 『マミ』は自分のことを、控えめに言ってるだけかもしれない。俺の中でそんな心理が、自然と働いていたようだった。
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