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曖昧なままに
第4章 飲み潰れた後
「――!?」

 朝の気配を感じて、パッと目を開いた。勢いに任せ身体を起こすと、鈍い頭痛に見舞われ思わず顔をしかめる。

「え……?」

 見知らぬ部屋。自分がそこに在ることに、俺は驚いている。しかし、それも違っていた。自分の部屋ではないが、知らない場所でもなかった。

 イブの夜に訪れたラブホテル――暫くして、俺はそれを認識する。

 何故、ここに……? その疑問の答えは、直後に解けた。

「おはようございます」

 突然の挨拶を受けビクリとしながら、俺は声のした方向をそっと見る。するとソファーにちょっこんと腰かけた愛美が、にこやかに俺を見つめていた。

 そうか……昨日、俺は酔っぱらって……それで愛美の車で……。だが――

「どうして?」

「ごめんなさい。私、住んでいる場所を聞いてなくて……それで、前と同じこの部屋へ」

「それにしたって――」

「だって、とても酔ってたから……。いけなかったですか?」

 愛美はしゅんとした顔をして、申し訳なさそうに言った。そんな顔を見せられれば、それ以上、責めるような真似はできない。

「いや……そうじゃなくて」

 元を正せば、酒が回って寝てしまった俺が悪いのだ。だから俺が知りたいのは、そういうことではない。

 問い質したかったのは、その後のこと。結果的に俺は彼女に果てさせられ、そのまま寝てしまったらしい。酩酊状態ではあったが、それらは感覚として生々しく脳裏に残っていた。

「キミは……一体、何がしたい?」

「うーん――どうなのかな?」

 愛美はふと考える素振りを見せ、小首を傾げる。別に惚けたり小馬鹿にした様子ではなく、真剣に思慮しているようだ。それから、ふっとした笑みを漏らして言う。

「でも、洋人さん。とても気持ち良さそうでしたよ」

「そ、それは……そうだろうけど……」

 その時の自分の姿を想像し、俺は年甲斐もなく顔を赤くした。

「それなら――私もそれで、良かったと思います」

 そんな俺を眺めつつ、そう言った愛美は何故か満足げな顔をしている。

 何気に話を逸らされながら、俺はこの時それ以上の会話を諦めていた。心にモヤモヤとしたものを抱きつつも、己を情けなく想う気持ちが勝っていたのだろう。


 小鳥が囀る朝靄の中。愛美が走らせる車で、今度こそ俺は自分の部屋へと帰って行った。
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