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曖昧なままに
第7章 ディープな日
 その未熟な料理も。部屋の前で俺を待っていた姿も。俺の孤独だった心に、変化を齎していることは事実。

 だが、俺は理解していた。愛美が見せるそんな一面は、『恋愛ごっこ』なのだと。

 愛美は自分に足りないものを、そうして満たしているのだろう。そしてそれは、ほんの表層のこと。彼女が本性を表す為の、単なる前振りであった。


 だからこの夜も、俺は彼女に翻弄されようとしている――。

「洋人さん。入ってもいいですか?」

 食事を終えシャワーを浴びていると、その声は浴室の外より聴こえた。それが、開始の合図――。

「うん――」

「失礼します」

「ん……ソレは?」

 全裸の彼女を想像していた俺は、やや面食らう。浴室に表れた愛美が、黒いビキニの水着をその身に着けていたから。

 愛美は自嘲気味な笑みを浮かべ、その理由を語る。

「数年前に高校時代の友人に海に誘われて、その時に買った水着です。でも私……ドタキャンしてしまったので。結局それ以来、一度も着る機会もなく……」

「何故、行かなかったの?」

「大学生の友人が男の人を誘っていて……。それを知って、急に憂鬱になったんです。それに私は……人数合わせだったみたい。友人と言っても、特に仲良くしてたわけじゃなかったから……」

 それは決して快活ではなく、人付き合いが苦手な愛美らしいエピソード。

「ふと、そのことを思い出したんです。折角なので、せめて洋人さんにと――あの、どうですか?」

 こんな真冬に、初披露された水着姿。何度か全裸を見せているにも関わらず、何処か恥ずかしそうにして愛美は感想を求めた。

 その態度も相まって、俺は鮮烈な印象を覚えている。

「とても――」

 ――似合っている。そう言葉にするより、先。

「フフ――嬉しいです」

 スッと浴室に足を踏み入れた愛美は、即座に右手で俺自身を掴んだ。膨張の途上にあるソレを、彼女は俺の感想として受け取ったらしい。

「披露した、甲斐がありますね」

 チュと軽くキスをして、小声でそう囁く。愛美は右手を動かして、俺の硬度を更に極限まで誘っていた。

「……!」


 劣情の坩堝に墜ちながら、俺はふと考える。

 愛美が与えているのは、ストーブのような温もりとは違う。催眠の暗示にかかり、消失した感覚が寒さを認識していない。

 たぶん俺は、そんな状態にあるのだ。
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