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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 男との出会いを求めたからこそ彼女はそれを果たし、更にはこうして俺の前にいる筈だ。俺のその当然の疑問に、彼女はこんな風に答えている。

「あ……やっぱり変だと、思いますよね。話し相手っていうか……そんな感じの人がいたらって、そんな風に考えたから……?」

 喋ってる途中で、自分でも可笑しく思ったのか。愛美は小首を傾げて、語尾に微妙なイントネーションを携えた。

 その時に向けられた視線と可愛らしい仕草が、俺を期せずしてドキリとさせる。まるで悪戯が見つかった、子供のような顔をしていた。

 それだけで彼女の真意を探ることが叶わずに、俺は更に踏み込んだことを訊ねる。

「じゃあ――今までにサイトで知り合って、会った人はいるのかな?」

「はい。何人かとお会いしました」

 悪びれる様子もなく、はっきりとした返答。

「その相手とは、どうなったの?」

「結局は、会わなくなってしまいました。その……『付き合おう』とか言われたら、私が……無理なので……」

「そう……か」


 そう反応をしながらもこの時点に於いて、俺は大きな楔を打ち込まれていたようだ。

 つまり付き合いたいという意思を示した時に、彼女は去ってしまうということ。もちろんそれは、俺にしても例外とは思えない。

 そして彼女を魅力的に感じていただけに、俺が少なからず落胆していることは否めなかった。

 そうして自分の部屋で一人。愛美との会話を反芻していた時。

「――!」

 ふと鳴り始めた携帯が、メールの着信を告げる。


『今日はありがとうございました。良かったらまた誘ってくださいね』


 そんな内容の愛美からのメールを眺め、また俺の鼓動が高鳴ってゆく。

 少なくとも、悪い印象は与えていないようだ。だったらとりあえず、また会えるのだろう。そう思えたことが、やはり嬉しくあった。

 俺はまだ――愛美とのこれからに、期待を募らせようとしている。
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