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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 そうなのか……。その事実を受け止めながら、俺は端的に感じていた。話をする様子からして、恐らく嘘ではあるまい。それを確信してその上で、俄かにゾクリとした感覚を受ける。

 こんな表現をしてしまえば、処女であることに興奮を覚えた中年のようだ。だがそれは少し語弊がある。それに流石にまだ、自分を中年だなんて思ってはいない。

 敢えて言うのならば、繊細な美術品を前にしたような感覚。決して壊してはいけないと、恐々とそれに触れながら。それでいて、何処か魅了され何時までも触れていたいような。そんな複雑な想いが、俺の中に生じていた。

 彼女も自覚するように、この年齢で男性経験がないことは、一般的にはある程度のマイナス要素も漂い兼ねない。特に本人にしてみれば、自虐的になるのも不思議ではなかった。

 しかし愛美の場合は、その純粋そうなイメージも相まって、それはそれで男心を擽るというもの。そんな感想を抱く俺が、いい歳であるということは否めないらしいが……。

 最もそれだけに、変にがっつく様な真似は控える必要がある。ゆっくりと時間をかけて、何れは――。その時、俺にそんな目論見が生じていた。

 だがその後の愛美の言葉は、そんな俺に冷や水を浴びせている。

「私、男の人と付き合うとか……あまり興味がないんです」

 彼女は何処か虚ろに宙を見つめつつ、そう言っていた。

    ※    ※

 結局この日は、一緒にお茶をして一時間ほど話しただけ。その後、俺は早々に自宅のアパートへと引き上げた。

 俺としては、別にその日限りの関係を求めていた訳ではない。互いのメアドと番号を交換したのだし、俺としてはそれで十分に目的を果たしていたが……。

「……」

 やはり気になるのは、彼女が残した言葉。男と付き合うつもりはない、そんな意を彼女は俺に伝えていた。

 最近の若い男女の中には、恋愛を面倒だと感じてる者も多いと聞く。愛美もそんな中の一人、ということであろうか。或いはセクシャリティの問題等。まあ今の処、その真意は不明だった。

 もちろん俺に対する警戒心から、予防線を張っている可能性もあろう。しかし俺には、彼女があからさまな嘘を、言っているとは思えなかった。

 そうなると、ある疑問が浮かぶ。その時にも、俺はそれを愛美に訊ねている。


「それならどうして、あんなサイトに登録してるの?」
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