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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
慰安旅行の二日目。奈央との情事の夜が明けた、次の朝のこと。
俺は眠い目を擦りつつ、ホテルのチェックアウトを済ませた後。皆が集まるバスの前へと向かう。
最初に顔を合わせたのは、運悪く柏原課長。俺は気まずい想いを秘め「おはようございます」と、小声で挨拶しその場を過ぎ去ろうとするが。
「オイ、中崎」
「はい……?」
呼び止められ、俺は少なからず焦りを覚えた。そんな俺の心中を察したかのように、課長は意味ありげにニヤニヤと笑う。
「お前、もしかしてだけど。昨日の夜さあ――」
「え……?」
ば、ばれた……? 俺の額には、瞬時に冷や汗が滲んだ。
しかし課長が次に発した言葉は、実に意外なもの。
「ペイチャンネル、視聴しただろ?」
「は?」
この場合ペイチャンネルとは、ホテルに設置された有料放送のことであるが。
「惚けるなって、隣の部屋の連中に聴こえてたらしいぞ。『あん、いい』――とかいう喘ぎ声がな」
「う……」
それなりに造りの良いホテルだから、平気かと思ったが……。
「お前に女を連れ込む甲斐性なんてなかろうし。せいぜいAⅤでも観てたんだろ、と思ってな」
本当にそう思うのなら、どうかスルーしていただきたい。俺はこの課長が苦手だと、再確認する。まあ、それでも――
「は、はは……。内緒でお願いしますよ」
俺は愛想笑いを浮かべ、甘んじてその冤罪を受け入れた。もっと大きな罪を隠す為、そうするより仕方ない。
と、そこへ。
「何の話ですか?」
姿を現したのは、他ならぬ奈央であった。
「ああ、この男がさ。昨日、部屋で一人エロビデオ観てたって話」
俺の『内緒』を端的に喋る柏原課長には、軽く殺意さえ覚える。だがまあ、ここは我慢。それにこの件に関して、共犯である奈央。俺は彼女からの、フォローの言葉を期待するが――
「やだあ、中崎さん。そんなに寂しかったんですかー?」
奈央はそう言って微笑み。課長にわからないように、俺にペロっと舌を出す。
く……元はと言えば、君の声が原因なのだが……。俺はまたグッと想いを噛み締める。
そんな俺をすっかり無視して、課長は既に奈央に夢中だ。
「奈央ちゃん。昨日の夜、何処に行ってたんだよ?」
「あ、はい。ちょっと――」
その先、何と答えるのか。俺もその言葉に注目する。
俺は眠い目を擦りつつ、ホテルのチェックアウトを済ませた後。皆が集まるバスの前へと向かう。
最初に顔を合わせたのは、運悪く柏原課長。俺は気まずい想いを秘め「おはようございます」と、小声で挨拶しその場を過ぎ去ろうとするが。
「オイ、中崎」
「はい……?」
呼び止められ、俺は少なからず焦りを覚えた。そんな俺の心中を察したかのように、課長は意味ありげにニヤニヤと笑う。
「お前、もしかしてだけど。昨日の夜さあ――」
「え……?」
ば、ばれた……? 俺の額には、瞬時に冷や汗が滲んだ。
しかし課長が次に発した言葉は、実に意外なもの。
「ペイチャンネル、視聴しただろ?」
「は?」
この場合ペイチャンネルとは、ホテルに設置された有料放送のことであるが。
「惚けるなって、隣の部屋の連中に聴こえてたらしいぞ。『あん、いい』――とかいう喘ぎ声がな」
「う……」
それなりに造りの良いホテルだから、平気かと思ったが……。
「お前に女を連れ込む甲斐性なんてなかろうし。せいぜいAⅤでも観てたんだろ、と思ってな」
本当にそう思うのなら、どうかスルーしていただきたい。俺はこの課長が苦手だと、再確認する。まあ、それでも――
「は、はは……。内緒でお願いしますよ」
俺は愛想笑いを浮かべ、甘んじてその冤罪を受け入れた。もっと大きな罪を隠す為、そうするより仕方ない。
と、そこへ。
「何の話ですか?」
姿を現したのは、他ならぬ奈央であった。
「ああ、この男がさ。昨日、部屋で一人エロビデオ観てたって話」
俺の『内緒』を端的に喋る柏原課長には、軽く殺意さえ覚える。だがまあ、ここは我慢。それにこの件に関して、共犯である奈央。俺は彼女からの、フォローの言葉を期待するが――
「やだあ、中崎さん。そんなに寂しかったんですかー?」
奈央はそう言って微笑み。課長にわからないように、俺にペロっと舌を出す。
く……元はと言えば、君の声が原因なのだが……。俺はまたグッと想いを噛み締める。
そんな俺をすっかり無視して、課長は既に奈央に夢中だ。
「奈央ちゃん。昨日の夜、何処に行ってたんだよ?」
「あ、はい。ちょっと――」
その先、何と答えるのか。俺もその言葉に注目する。