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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
 当たり前ではあるが、何れにせよ適当に誤魔化すより他に選択肢はない。果たして奈央は、どの様に言い訳するだろうか。

「――彼氏に電話してました」

「え?」

「たった一泊の旅行なのに、あんまり寂しがるもんだから。つい、長電話になっちゃって」

「何だ……奈央ちゃん、男いたのかよ……」

「ええ。言ってませんでしたっけ?」

「一体、どんな奴なんだ?」

 執拗にそんなことを訊ねながらも。柏原課長のテンションがガタ落ちする様が、手に取るようにわかった。

 それにしても、やや意外である。男がいるなんて嘘は、見栄を張るみたいで嫌だと話していた奈央であるのに。と、俺がそんな風に思っている時だった。

「ちょっと臆病だけど、とても優しい人ですよ」

 そう言った奈央は俺に、軽くウインクをしてる。

「……」

 やはり、そう――だよな。奈央の気持ちを感じ、それを嬉しく思うからこそ。俺の心中は複雑な想いで、満たされようとしていた。

    ※    ※

「あーあ、疲れた!」

 何とか面倒な旅行も終わり、アパートに帰り着いた俺はベッドに寝転ぶ。

 帰りのバスの中も、結局は宴会騒ぎ。幹事という慣れない役目の気疲れも加え、俺の心身の疲労はかなりのものだった。明日が振り替え休日なのが、せめてもの救いか……。

 最もこと身体の疲れに関しては、何もバスでの長距離だけが原因ではない。

「ん?」

 携帯の音が聴こえたのは、脱ぎ散らした上着の方から。俺はそのポケットから携帯を取り出し、メールの着信を確認した。差出人は身体の疲労の一因――西河奈央だ。


『旅行の幹事、お疲れ様。それにしてもヒドい旅行ですね。たぶん来年は行かない…。だけど、今回は参加して良かったと思ってますよ。さて、何故でしょう? フフ、また会社で』


「ふ……」

 そのメールを見て、自然に零れる笑み。たぶん、昨夜二人で風呂に入った辺りから、なのだろう。俺は俄かに浮かれている、己に気がついていた。

 同時にそんな自分が、現実逃避している状態なのも知ってはいる。

「!」

 そのタイミングで受信した、もう一つのメール。


『明日、部屋に伺ってもいいですか?』


 それは、愛美からであった。

「……」

 俺は暫し考えてから、それに返信――。


『いいよ。俺も話したいことがあるんだ』
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