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第16章 35

「美沙…」
彼が優しい声で私を呼ぶ

彼のその手が
私の頬や髪を撫でるときに
言葉はなくても

彼の気持ちが伝わってくる

夕方帰り際
彼が私をきつく抱き締めキスをした



自宅に帰り夫の帰りを待ち
夕食を食べに出掛けた

ベッドに入ると疲れていたのか
夫はすぐに寝息をたてた

私はどこかほっとしたような気持ちになり
リビングへと向かった


35歳…

10代や20代の頃には
30代といったらもうおばさんだと
皆が言っていた

今の私はどうだろうか…

これから先にどんな変化が待っているのだろうか…

不安がないとは言えないけど
人とは少し違うこの道を
歩いて来たからこそ
見えたものもあって

今が幸せかと聞かれたら
万事何事も…
ではないけれど
幸せだと
感じている

このままか

そうでないかは分からない

でも彼を想う気持ちを
彼を想う私の心を
大切にすることで
ずっと変わることのできなかった私が
変化していく

後悔はしていない

夫への罪悪感も薄れてはいない

どうしたら間違いではないのかも
分からない

私は今ここにいる

答えが見つかるのか
見つからないままなのか

もう見えているのかも

よく分からないけど

今はこのままでいたい

そんなふうにぼんやり考えていた









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