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第16章 35

「美沙…ほら…」
横たわりぐったりとしたままの私の汗と涙を
彼がティッシュでそっと拭う

「大丈夫か?」
心配そうに覗きこむ彼の唇に
そっとキスをして
微笑むと

「ん…また涙出ちゃったんだね…」
自分でも気付かないほど
その行為に夢中になってしまっていたことに
少し驚いていた

「なぁ…美沙…」
彼が私を抱き寄せ言った

「俺…美沙を失いたくない…
愛おしくてたまらないんだ
俺はどうしたらいい?」

「ん?どうしたの?
そのままでいいよ…そのままの涼がいい…
でもね…どこか何か…変わることがあったとしても
私の気持ちは変わらないよきっと…」

私がそう言うと彼は
照れくさそうに笑っていた

ねぇ…涼…
きっと不安なんだよね…

私が一人になって
いつも一緒に居られるけど
涼には帰らなくてはならない場所があって…

「何をどうしたってお前への気持ちは
誰にも負ける気はしないけど
独身の肩書きには勝てないな…」
私が離婚したすぐ後に
ふとした会話の中で涼が何気なく
言った言葉…

私は

「そんなことないよ」
と笑って返事をしていたけど
涼は不安なんだと思った

涼…
本当はね
毎日おはようって
毎晩おやすみって
飽きるくらい365日ずっとずっと一緒に居たいって
思ってるんだ

涼と居られるなら
他には何もいらない

そんなふうに思ってしまう

でもそれだけは言わないって
決めてるから…

どんな事情があったとしても
どんなに涼を必要だと思っていても

「あなたが欲しい」
と絶対に言ってはいけない

そう決めていた

「ん…美沙…」
眠い声で私を優しく包みこむように彼の長い腕が
身体中に絡みつく

「美沙さ…
最初の頃よく言ってたな…
綺麗な箱の中に入れて大事にしまっておいてってさ…
必要なときだけ開けて私を出して
またそっとしまっておいて…ってさ
俺…面白いこと言うなぁって
思って聞いてたけどさ…
できることならそうしたい…」

私の胸に顔を埋めたまま
彼が言う

「あはは
今だってそんな感じだよ…大丈夫だよ」
私はそう言って
彼の額にキスをした

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