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第7章 生きるということ
私は横山さんが帰ったあと
実家に向かった謙さんが気になって
仕方なかった
薬のせいか
眠くてたまらなくて
不安の中ふたたび眠りについていた
気が付くと横山さんが帰ってから
八時間が過ぎていた
私は一度も目を覚ますことなく眠っていた
「お腹空かないかしら…」
看護士さんが心配そうに部屋に入ってきた
「あのね身体の大きなスーツの方がね…
受付の近くの待合でずっとあなたが目を覚ますのを
待ってるんだけど…」
謙さんだと思った
看護士さんに呼んでもらうようお願いした
謙さんが私の横に座り
「ごめんな…
いてやれなくて」
と言った
私は首を横に振った
「親御さんに保険証借りて来たよ
今俺のところで働いていて
風邪をこじらせたってさ
話の途中でお父さんが帰って来てさ…
まぁ…とにかく寮に住んでいるから
そこに住所変更をさせます
って了承をもらって来たよ
勝手に行ってごめんな…
気配で起こしたらかわいそうだから
下で待ってたんだ」
私は涙が溢れ出てしまった
ティッシュを手にとり
その涙を何度も拭きながら優しく謙さんが話す
「一緒だったんだ…龍も
美紗のお父さんの話
龍から聞いてさ…
ごめんな…俺が美紗のことを苦しめて
追い詰めてるよな
俺なんかが美紗のこと好きになっちゃ
だめなんだな…」
謙さんが泣いていた
私は何も言えなくて
ただ何度も首を横に振ることしか
できなかった
二日入院して
退院した
謙さんは実家での話をそれ以上しなかった
私も何も聞かなかった
お店に戻るといつも通り一日が慌ただしく終わる
ただ前と少し違ったのは
休日と休憩をしっかりとるようになったことだった