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第8章 揺れる心
それからはいつもと変わらず一緒にいたけど
することはなかった
してしまうと苦しくなりそうで
離れられなくなってしまいそうで
その行為をなんとなく避けているのを
分かっているかのように
謙さんも私を求めなくなった
事務所や助手席でいつものように私を見つめる
謙さんに気付くたび
喉の奧が痛くて苦しくて辛かった
私は深く考えることを避けた
考えたらすぐに答えが分かってしまうから
ただただ
仕事に夢中になった
ある日買い出しを手伝ってくれた横山さんが
「指輪そこにしてくれてるんだね」
とネックレスに通してあった指輪に気が付く
「うん…なんかね
元気が出るからね…御守り…」
私が言うと
「そっかありがとな…
俺12月25日でここを辞めるんだ…
母親の具合が悪くてさ
ちょっと早まっちゃったんだ…」
助手席の横山さんが私をじっと見つめた
抜け出せるかもしれないと
思ってしまった
私はここで自立して歩いていこうと
2年近く踏ん張っていたのに
謙さんはきっとどんな私でも
優しく受け入れてくれると分かっていたのに
朝になる前に帰ってしまう
時々お父さんの顔をする謙さんに
幼い頃の自分や家族を思い出してしまって
自分自身を見失う寸前だった
「あのね…」
私がなにか言いかけると
私のほうを真っ直ぐ向いて全てを受け入れようと
してくれている謙さんに
いつも言えなかった
「ううん…なんでもない」
そう言うと謙さんは少しがっかりしたような
顔をして優しく
「そっか…」
と笑っていた
ずっと
ずっと
一緒にいてほしい…
帰らないで
私だけの謙さんになって…
言ってしまえば
謙さんが苦しむことも
自分が言ってしまったことに
後悔することも分かっていた
ただそれが怖かった
2ヶ月後には横山さんはいなくなってしまう
いつもいつも
一番に私を気にかけてくれていた
きっと横山さんなら
ずっと私と一緒にいてくれる…
彼はどんなふうに私を求めるんだろう
その大きくてたくましい腕に
全身を預けて心も身体も
寄りかかってしまいたい…
そんなふうに思ってしまっている私は
ずるいんだと胸がもやもやした
結局は誰かといないといられない
どうしたらいいか分からなかった
毎日そのことで頭がいっぱいになってしまっていた