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第9章 決心
私は嗚咽をあげて泣いた
謙さんも泣いていた
「美紗がはじめて素の姿になったな」
と謙さんはきつく私を抱き締めた
「ありがとう」と「さよなら」
を言うのが精一杯だった
仕事の引き継ぎをし
会長にもお礼と挨拶をし
横山さんと入籍をした
龍と謙さんと真美にしか報告はしなかった
横山さんは私の実家に挨拶にと
何度も言っていたけど
私は拒否し続けていた
横山さんのお父さんは早くに亡くなり
お母さんは実家に一人きりだと
兄弟とは疎遠だとも聞いていた
他には何もいらないと
私は思っていた
入籍の日にこっそりと彼が用意してくれていた
左手の薬指につけてもらった指輪が
キラキラと輝いていた
翌日お店の子たちや従業員
事務所にいる人たちに挨拶をして
私は彼の地元に引っ越しをした
「裕ちゃん…海寄りたい」
彼の地元は海と山が綺麗な町だった
引っ越し先にと何度か部屋を探しにきていて
海のすぐ側のこじんまりとした
アパートに決めていた
「もっと広くて良いとこじゃなくていいの?」
彼は何度も私に聞いたけど
私はそこがいいと譲らなかった
浜辺のベンチに座ると
二年前別の海で真美と龍と…
そして謙さんに出会った日を思い出す
私は彼の腕にしがみつき
それをかきけしていた
犬の散歩をしている男の人が
彼に駆け寄り
「久し振りだな、どこ行ってたんだよ!」
と話をする
彼の地元の小さな街は
彼を知る人ばかりだった
私は彼の三人目の妻になった
私は23歳
彼は33歳
彼の過去がどうであろうと
私の隣にいる彼が今のままであってくれれば
ずっと添い遂げることができると
思っていた
新居に着き
部屋の片付けをはじめる
「明日から仕事に行くから
辞めるときに会長からの借金とか
全部片付けてきたから早く働かないとな」
そう言って彼は笑った
夜になり近所の定食屋さんで夕食を済ませ
部屋に戻る
「明日早いから寝ようか」
彼がベットに入る
私は腕枕をせがみ彼にぎゅっとしがみつく
まだ彼とはキスしかしていない
今夜あるのかもと少しドキドキしていたけど
彼はなにもする様子がない…
私は早く繋がりたかった
謙さんとの記憶を早く思い出に
してしまいたかった
唇に軽くキスをして目を閉じた彼に
私はもう一度と彼の首に手をまわして
何度もキスをした…