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女は抱かれて刀になる
第1章 始まりは金曜日
うつむいて、唇を噛み締めた少女がいる。作務衣に身を包み無精髭の生えた、満員電車の中では異質な空気を醸し出している虎徹が彼女を見つけたのは、ただの偶然だった。
(ったく、痴漢とは、朝から嫌なもん見ちまったぜ)
少女は上着こそパーカーで露出もないが、ショートパンツから伸びる足は白く細く、泣きぼくろは色気がある。だが肩ほどまで伸びた髪は黒く、あまり派手な印象は受けない。汚い大人から見れば、少女はいい餌だ。だからといって、痴漢が許される訳ではない。虎徹は正義感を胸に、動くのも辛い人の波をかきわけた。
「なんだ、お前同じ電車に乗ってたのか」
少女がなぜ声を上げず、されるがままに触られているのか。恐怖の源は痴漢なのか、声を上げる事により晒される好奇の目か、あるいはどちらもなのか。今日初めて見かけた少女の心情など、虎徹が分かるはずもない。ただ唯一分かるのは、本来は整っているであろう彼女の顔が、嫌悪に歪んでいる事だけ。虎徹はまず穏便にと、知り合いを装い彼女に声を掛けた。
少女は聡かった。馬鹿正直に人違いだと話す事はなく、むしろ大胆にも虎徹へ抱き付いてきたのだ。
「――おはよう。会いたかった」