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女は抱かれて刀になる
第1章 始まりは金曜日
 
 顔を上げた少女を見た瞬間、虎徹は胸を刺されたかのような衝撃を覚える。少女らしい甘く無垢な雰囲気を湛えているようで、泣きぼくろのある鋭い瞳はちっとも笑っていない。人を警戒し、触れる者を刺し殺すような影がそこにあった。

「ね、せっかくだから一緒に行こ? 時間あるよね」

 少女が親しい仲の人間と顔を合わせたと勘違いした痴漢は、手を引っ込めそそくさと去っていく。虎徹が筋骨隆々とした大男である事も、痴漢が逃げる原因でもあった。

 だが虎徹は、もう痴漢など頭にはなかった。自分に抱き付き媚びる少女に、目を奪われていた。少女は、見た目こそ健康的で可愛らしいが、弄ばれるだけの弱い人間ではない。虎徹は自然と、抱き付く少女の背に手を回した。

「ああ、じゃあ次の駅で降りるか」

 痴漢を騙すためとはいえ、初対面の、しかも作務衣姿の男に触れられても、少女は作り笑いを崩さない。これは相当男慣れしていると虎徹は考えたが、少女が頷いた時、ふと気付いた。

(こいつ……手、震えてんじゃねーか)

 虎徹の背中に回され作務衣を握る拳は、小刻みに震えている。聡く冷たい瞳と、純真な手。少女もまた、どこか異質な人間だった。
 
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