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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
「もうボクの事、キライになったかな」
和泉は写真を伏せ、テーブルの前で膝を抱える。目を閉じれば、しまい込んだ三日前の記憶が和泉になだれ込んできた。
「――っ!」
耳を塞ぎ殻に篭もっても、内から迫る脅迫には無意味だった。記憶は和泉を縛り、見たくない現実を突きつけようとする。
(……虎徹の言う通りだ。全部捨てても、結局ボクはあの事を忘れたりなんて出来ないんだね)
塞いでも、塞がなくても結果は同じ。和泉は諦め、縋る場所を見つけられない腕をだらりと下げる。
ノックもなく部屋の扉が開いたのは、その時だった。
「和泉」
それが母の声であるなら、和泉に希望を与えただろう。しかし中へ入ってきたのは、一度立ち去ったはずの菊だった。
「菊さん、帰ったんじゃ」
「あの男と一緒にいる限り、警戒は解かないだろうと思いまして。無理に居座って、また男の家に引っ込まれても困りますからね」
和泉を見下ろす菊の表情は、先程までと同じく穏やかなものだった。だが和泉は、張り付いたまま変わらない仮面のような笑みに、ただ寒気を覚えた。