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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
和泉の母が、夜の仕事に出掛けるのはいつも八時。家へ戻った和泉はちょうど玄関先で、濃い化粧と派手な服装をした母と顔を合わせた。
「ただいま、お母さん。あのね、ちょっといい? 話があるんだけど……」
「後にしてちょうだい、これから仕事なの」
母は耳を貸すどころか目も合わせず、玄関のドアを開く。そして母親とは思えない無関心な声で、一言だけ放った。
「逃げないでよね」
和泉が言葉を帰す間もなく、ドアは閉められ隔てられる。
「……母親なら、逃がしてよ」
届かない声は、和泉の瞳を暗く染める。虎徹には大丈夫だと言ったが、いざ顔を合わせると何一つ出来なかった。
(やっぱり虎徹に相談すれば良かったかな。明日、話してみよう)
力のない自分に溜め息を漏らしながら、和泉は自分の部屋に戻る。女子高生にしては可愛げはないが、整理され落ち着いた部屋。だが和泉は足を踏み入れたその瞬間から、心臓がいやに早く鳴る。
脂汗が滲んだその時、机に置いた写真立てと、ふと目が合った。飾られているのは、幼かった自分と、貞淑な姿をしていた頃の母。そして和泉を抱き上げ太陽のような笑みを浮かべる、父だった。