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女は抱かれて刀になる
第4章 若紫
 






『あの子、若紫よ』

 電話先の吉行の声は、口調こそ女のままだが調子は男の低いものへと変わっていた。

『源氏物語、知ってるでしょ? 光源氏がさらって育てて、お嫁さんにした紫の上。あの話にそっくりだったから、警察内であの子はそう呼ばれていたの』

「呼ばれていたって……どういう事だ? 一から全部話せ」

『ええ。ここらを仕切るヤクザの『一文字組』の若頭・菊が、一人の女の子に執着してるってのは、裏社会じゃ有名な話なのよ。光源氏と紫の上みたいに、理想の女を育てているって。あの子に少しでも余計な事をしたら、同じ組員でも葬られていたそうよ』

「両親はどうしたんだ、娘を取られて、訴えなかったのか?」

『父親はすでに亡くなっていて、母親は菊の女になってるわ。いえ、あの子を差し出す代わりに、愛人関係を築いたと言った方が正確ね』

「警察は、そこまで知ってて助けられなかったのか!?」

『本人や母親、周囲が被害届を出せば動いたわよ! けれど被害届どころか、内縁関係として一文字と母子は成立していたわ。ヤクザが育てている、それだけじゃ警察は保護出来ないのよ』
 
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