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女は抱かれて刀になる
第5章 刀匠の武器
眠る和泉に気を遣って朝の筋トレは控えたのか、あるいはそれに気付かないくらい深く眠っていたのか。和泉が目を覚ましたその時、時計は十時を指し、虎徹も部屋にはいなかった。
代わりに残されていたのは、朝食は冷蔵庫に入れておくと書かれたメモ。決して綺麗とは言い難い文字も愛おしくて、和泉はポケットにそれをしまい込んだ。
(あれ、なんかメール来てる)
そして携帯のランプに気付き、和泉は画面をタッチする。そして送り主の名前を見た瞬間、体から血の気が引いた。
「――菊、さん」
見ない振りをして消してしまいたかったが、和泉は黙って逃げ出した身。何が書かれているのか、確認しない訳にもいかなかった。
『あなたがどこにいるかは分かっています。戻ってこなければ、彼の命は保証出来ませんよ』
一文字 菊という人間が、どんな世界に身を置くのか。命という言葉が口先の脅し文句でない事は、和泉もよく知っている。
(そうだ、ボクがここにいるって、そういう事なんだ)
目の前が真っ暗になると同時に、携帯が手から滑り落ちる。それを拾う力さえ、和泉には沸かなかった。