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Dolls…
第5章 静かな晩餐
「"志望"って事はまだ入学してないのか?」

「まぁ。もっと実力を付けたいですし、今はまず…、その…、お金が必要ですし」

「金?」

「…入学金とか」

こんなお金持ちの椎葉さんにすれば美大の入学金なんて知れた額なんだろう。

「田舎の両親は出してくれないのか?」

「…両親は上京するのを反対してました。それを押し切って上京したんです。今更頼れないですし、出来るだけ自分の力で進みたいんです」

これまでの私の人生を振り返るようにして椎葉さんに話した。

両親に反対されたことや、それを押し切ってムリヤリ上京したこと。

気づけば東京までの片道切符を手に少ない荷物と共に新幹線に飛び乗ったこと。

こんな人に話したところで椎葉さんにとってはどうでもいい身の上話に過ぎない。

椎葉さんほどの才能のある人に私の気持ちなんて━━━━━。


「お前のデッサンを見せてもらったが、悪くはない」

「え…?」

「お前が落としたスケッチブックに描かれてた絵」



その台詞は…

それはまるで、本当に突然の事で…。



「細部に至るまでよく描けてる。線もしっかりしてるし強弱のあるタッチだし、いいものは持ってる」

「…………っ」

この人が悪魔のような人だとか、私にしてきたこと全てを忘れてしまうくらいに嬉しい称賛の言葉だった。

「ほ、本当…ですか…?」

「俺の仕事も細かい作業の繰り返しだからな。その辺の目はあるつもりだ」



この人は、私の体を好き勝手に弄んだ人なのに

それでも、絵を誉められたのがこんなにも嬉しいなんて…。


上京してからは誰に絵を見せるわけでもなくて、周りの才能溢れる人を羨んでばかりだった。

でも、今は…

悪魔のような人だけど、認めて貰えた気がした。

私の絵を…、自分の作品を…。


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