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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第4章  【弐】
 枕許の行灯が淡い光を室内に投げかけている。そのお陰で、閨の中は辛うじて物の文(あや)目(め)が識別できた。庭に面した障子に二人の影が映り、ゆらゆらと揺れている。
 嘉宣の瞳はその影を見つめているようにも思えたが、その実、何も映してはいないのだろう。昏(くら)い瞳は強い虚無に支配されていて、あたかも無限の闇に続いているかのようだ。
 こんなに哀しげな瞳をした人を、橘乃はこれまで見たことはなかった。
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