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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第4章  【弐】
 ああ、この人は淋しいのだ。
 橘乃は心の底から思った。母に振り向いて貰いたい、母に愛されたい。幼いときから、その想いは変わらず、今もその一心に違いない。ただ、長じた分だけ、母を憎む心もまた育ってきていることも確かなのだ。愛されないなら、いっそのこと憎めば良い。肉親の情愛にしろ、男女間の恋情にしろ、烈しい愛は時として憎悪に変わり得るものだ。
 母を恋い慕っていた嘉宣がいつしか母を憎むようになったとしても不思議はない。
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