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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第2章 【序章】
嘉宣は小さく息を吐き出すと、もう一度頭上を振り仰ぐ。朱(あけ)に染まったたくさんの葉が晩秋の薄蒼い空を覆い尽くしている。こうして紅葉に見入っていると、あの日―橘乃と並んで庭の見事な紅葉を眺めた一瞬に己れが戻ったのかと錯覚しそうになる。
嘉宣はそこでハッと我に返った。頭上高く百舌の鋭い啼き声が響き渡り、彼は唐突に現に引き戻される。ゆっくりと周囲を見回しても、彼の他、人と呼べる者は誰もおらず、庭に女郎花は咲いていない。