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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第2章 【序章】
 その時、一陣の風が吹き渡り、身の傍を駆け抜けていった。風が冷たい。
 もう冬が近いのだと季(とき)のうつろいが告げている。ゆらゆらと当て処なく漂う楓の葉を眺めながら、嘉宣はかすかに身を震わせた。
 風が樹々の間を渡ってゆく。その音に時折、鳥の声が混じる。
 嘉宣は彼が生涯でただ一人愛した女の面影を瞼に浮かべながら、樹々を渡る風の音にいつまでも耳を傾けていた。
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