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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第5章 【参】
 橘乃の手がそろりと伸び、嘉宣の頬にかすかに触れた。
「その前に―怖ろしい事態になる前に、こちらから仕掛ければ良いのです」
 夜の闇に沈む小さな声で、橘乃は囁いた。
 空は曇っていたようだが、月が出たのか、細い月光が障子戸を通して部屋にまで差し込んでくる。
「消さねば、私たちが消される。あの方の怖ろしさを私がまだ知らぬと仰せになったのは、他ならぬあなたさまではございませぬか」
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