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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第3章 【壱】
 どれ一つ取っても、賞められたものではなかった。おまけに婚家よりも格上の十万石出石(でいし)藩から嫁いできているから、端から良人である父を見下し我が物顔のし放題。あんな有り様では父が早々と愛想を尽かし逃げ出してしまうのも致し方のないことだ。
 成長した嘉宣は次第に母のような女を押しつけられた父にむしろ同情さえ憶えるようになった。その点、父は美男であった。何も自分に似ているからというわけではない。涼しげな眼許にせよ、整った鼻梁にせよ、とにかく整いすぎるほど整った容貌であった。
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