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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第5章 【参】
 橘乃が我知らず会心の笑みを洩らしたその時、背後の襖が音もなく開いた。
「まだ起きておったのか」
 嘉宣の声に橘乃は笑みを消し、その場に手をついて迎え入れる。
「夜更かしは身体に障ろう」
 嘉宣は橘乃の腹が膨らんでゆくにつれ、いささか構い過ぎるのではないかと思うほど、彼女を労わるようになった。
「今年は様々なことがございましたゆえ、過ぎこし方に想いを巡らせておりますと、余計に眠れなくなってしもうて」
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