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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第6章  【四】
 浪江の手には、小さな盆があった。湯呑みと、小さな薬包みが一つ。それが何を意味するのか、橘乃はいやというほど判っている。
「お方さまっ、どうか、どうか、この場からお逃げ下さりませ。今なら、見張りの者どもも場を外しておりまする。ここを出て、庭から塀を乗り越えて、運が良ければ脱出も叶いましょう」
 浪江が懸命に言い募るのに、橘乃は首を振る。
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