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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第3章 【壱】
 橘乃の父千造は頑固だが、父親としては申し分なかった。三十石では一家三人が暮らしてゆくのがやっとという有り様ではあったが、日々の暮らしは穏やかに流れていった。母おさとは父とは対照的で、極めて現実志向が強い。この度でも、娘や稲木家に何の益ももたらさぬ結婚の約束などさっさと破棄すれば良いと結論づけている。
「出逢うてしもうたのです」
「―?」
 幸之進がかすかに眉を顰める。
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