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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第3章 【壱】
何かが動こうとしている。その先に自分を待ち受けているものは何なのだろう。橘乃はともすれば尻込みしそうになる我が身を叱咤した。母譲りの気性で、いつでも怖じ気づいて後へ引くよりは、己れを鼓舞して先に進むという習性がごく自然に身についていた。
前へ前へ。ひたすら進んで、己れの手にできるものは掴み取る。自分の人生は自分で切り開き、幸運は我が手で掴み取るもの。そう信じてきた橘乃には、これから進む道が怖ろしくもあり、愉しみでもあった。