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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
ゆっくりと、振り向く。
下着だけ身につけた姿で、俺の視線を躊躇いがちに受け止める彼女。
その瞳が揺れているのはなぜなのか──まるで、引き寄せられるように俺は彼女に近づいていく。
少しだけ、身体を引くようにした彼女に気づき、なぜかそれをさせまいと、俺は。
「……先生……?」
戸惑ったような呟きを、俺の腕の中で発した彼女。
衝動的に抱き締めたその耳元に、いい子だねと、そう囁いたときだった。
……それしか言えなかったときだった。
こくん、と彼女が頷く。
うん、と呟きながら、また。
息を震わせながら、何度も。
背中に回された彼女の両手。
俺の服をぎゅっ……と握る。
「先生……好き」
喉の奥から振り絞るような、その悲痛な告白。
また、胸が軋んだ。
たまらず彼女の頭を撫でる。
涙声の『好き』は、いつまでも俺の耳に届いた。
俺は黙って、それを聞き続けた。
……どれくらいそうしていたのか。
やがて彼女は胸の中で深く息を吐き、そのまま俺の胸を両手で押すようにした。
俯いたまま、もう行って、と──そう呟く。
「……わかった」
そっと彼女から離れ、ドアの近くに置いていた鞄を拾い上げる。
振り向いて、……じゃあまた、来週──そう言った俺に俯いたまま頷く。
そのまま、部屋を出た。
あの別れ際、彼女はいったいどんな表情をしていたのだろう────。
帰り道、そればかりずっと気になっていた。