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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
どこまでも狡い俺と、どこまでも健気な彼女。
『先生と生徒』という肩書きがたとえなくなっても、女を身体の関係としてしか見たことがない俺なんかが手を出していい相手じゃない。
彼女がそういう関係を望んでいないことぐらいわかる。
そして俺は彼女の望んでいるであろう関係は作れない。作る自信がない。
だから──これで、よかった。
もう会わないでいれば、彼女の中の俺も。俺の中の彼女も……きっと、静かに消えていくはずだから。
けれど。
『忘れないで』──そう願った彼女の言葉を思い出せば、心が揺らいだ。
俺とした約束を彼女は守った。
なら、彼女としたその約束を俺はどうする───。
……静かに目を伏せ、天を仰ぐようにし、それからそっと目を開けた。
その空は抜けるように青く、しん……とした冷たい空気はどこまでも澄んでいる。
俺と彼女を繋ぐ関係がなくなったこの日──彼女への、名前のわからないこの複雑な気持ちを、俺は封印した。
あの約束を俺は守るのか。
それとも守らないのか──今はまだ、わからないままだった。