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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
彼女に視線をやれば、静かに眠るその姿に胸がぎりっと痛んだ。
今度こそ、彼女は俺を嫌いになるだろう。
いや──もう、なっているかもしれない。
さっきはそんなふうには見えなかったけど、冷静になったら……俺に失望している自分に気づくのかもしれない。
次の約束はしたけれど。
彼女はきっと拒むだろう。
……もう、それでいい。
いや、その方がいい。
俺のことなんて、もう、いっそ嫌いになれば。
深く、息を吐きながら立ち上がる。
もうここにはいない方がいい──そう考え、静かに身支度を整えた。
部屋を出る前に、もう一度彼女を見る。
「……透子ちゃん」
ごめん──と、続けて呟いて。
屈み込み、そっとその頬を撫でた。
柔らかで、滑らかで。
指先に感じる彼女の体温に、また胸が軋んだ。
そっと離し、そのまま彼女に背を向けて、部屋のドアへと向かう。
落ちていた彼女のバッグ。
拾って、サイドテーブルに置きに戻った。
深く眠る姿。
自然に目がいく。
目覚めたときに、彼女はいったい何を思うだろう。
そう思いながら今度こそ、部屋を出る。
──長い夜が、終わった。